Grayson Masefield

最初の出会いはやはりセルゲイ・ヴォイテンコがらみで、ロシアの「Viva!Bayan」、2011年の動画から。

最初は地味であんまりぱっとしないなあ、っていう印象だった。

一緒に出ているセルゲイ・ヴォイテンコやフランスのジュリアン・ゴンザレスに比べるとオシャレじゃないし、あか抜けない。

それに演奏がなんというか硬質な感じで、この「Viva!Bayan」のときはトゥーツ・シールマンスの「ブルーゼット」を演奏したりもしていたのだけど、この曲にしては弾き方にふんわりしたところが無くて、逆に印象的だった。

 

で、その「Viva!Bayan」で彼は、こんなできごとのために私に強烈な印象を残すこととなる。題して「リベルタンゴ事件パート1」(おおげさかな・・・。)

開始後、2分10秒くらいで、リズムがずっこけている。

私はと言えば、彼を見守りながら引き戻すかのように力強くリズムを刻み続けるセルゲイ・ヴォイテンコの頼れる男っぷりにシビれるあまり何度もこの動画を見ていたので、とにかくグレイソンについてはこのときの印象ばかりが残ってしまった。

(でもこの動画、5分弱の間にすごくドラマがあって、大好き。)

その上、あなた!

「リベルタンゴ事件パート2」もあったとですよ!こちらです。

フィンランドのイカーリネンの2009年のアコフェスの映像なので、ロシアの件より2年前。

なんと一度ならず、二度までも!彼は2009年のアコーディオンワールドカップ「Coupe Mondiale」の優勝者なのだが、そういう演奏者の中でもこういう失敗動画が残っている人も珍しい。

(となりで弾いていたピーター・マリックまで、つられてメタメタ。これはこれで人間味があって面白い動画なのでかなり好き。)

そんなこんなで、Youtubeで動画検索をしたとき「Grayson Masefield」が引っかかってくると私は「また失敗してないかな?」っていう好奇心で見てしまうようになっていたのだった。

でもいくつも見ていると、当然だけど、すばらしい演奏の方が多いのですね!

これは2011年上海でのアコーディオンワールドカップでの演奏だが、こういう緊張感と疾走感のあるモダンな曲調のものを演奏すると、甘みのないシャープな顔立ちも相まってピカイチ。

ゴルカの曲も、彼がゼッタイ一番似合ってると思う。

(注:これはゴルカの曲ではありませんけど。)

 

Grayson Masefield。ニュージーランド出身。1987年9月10日生まれ。

公式サイトによれば、3歳からアコーディオンを始めている。

 

http://www.accordions.com/gmasefield/

 

かといって文化系少年じゃなくって、中高とバレーボール、テニスをやっていたそうで、バレーボールは名門校に進んだほどのレベル。

小学校では、日本でいうところのロータリークラブ賞みたいのを取っていたり、高校の校内スピーチ大会で優勝経験があったりと、かなりの勝ち組優等生。

日本だと、こういうタイプの少年とアコーディオンって結びつかないけど・・・。

でもデシャン先生といい、セルゲイ・ヴォイテンコといい、アコーディオンと勝ち組感が共存している人って、海外では決して珍しくはないのだよね~。

しかし言われてみれば、「Kamate、Kaora」のときの思い切ったシャウトなどはスポーツマンっぽかったかも。

 

彼の演奏で特徴的なのは、蛇腹の開き方がゆったり大きく、無理が無いこと。

鍵盤数からすると大型の楽器を使っているようだけど、楽器の大きさは感じられないので、かなり背が高いと思われる。バレーボールをやっていたせいなのかどうかわからないが、当然腕も足も長い。

その腕の長さを存分に生かし蛇腹をとにかく大きく開くことに加え、滞空時間と言いますか、開いたままコントロールしている時間も長いし、余裕も感じられる。

だから演奏にスケール感があるし、閉じるときのスピードの緩急でダイナミズムが生まれる。

やっぱ、そうとう上手い人(当たり前だが。)

リベルタンゴ事件でうたがってゴメン・・・。

 

これはちょっと前の映像で、まだ少年の面影が残るころのものだけど、演奏聴いてたら、美しすぎてちょっとナミダ出ちゃった。

決して美形ではないのだけれど、少年から青年になりかけのとき独特の硬さみたいなものがグレイソンにはあって、そこがとても魅力的。

ひょろっとした痩身の頼りなさと不安定さ。

そして、凛々しさ、爽やかさ、真摯さなどなど。

だからこそ、ハッとさせられる瞬間が多々ある。

なんといっても演奏中のひたむきな表情がとてもいい。

 

でもそういうとこも、徐々に無くなっちゃうのかなあと思うと、ちょっとさびしい。

最近胸板も厚くなってガタイも良くなり、だいぶ「男」になってきちゃったからなあ。

とはいえ、演奏家としてはとても力のある人なので、そういった少年の魅力が失われても、ずっとチェックはしていきたいですけどね。