Gorka Hermosa

ニュージーランドのアコ奏者、グレイソン・メイスフィールドの映像をいろいろ見ていた時に出会ったのが、この動画だった。

ラストにマオリ族の掛け声「Kamate Kaora」がモチーフとして出てくる・・・というか、完全にアコーディオンを床に置いてしまって、KamateKaoraを連呼するという変わった曲。そこに笑いが起きないだけの緊張感と気迫を維持して弾ききり、最後の表情に誇りすら感じさせるグレイソンもスゴイと思ったが、曲があまりに奇妙なので作曲者名も気になった。

Gorka Hermosa。ゴルカ・エルモサ。

ふーん、作曲者も変わった名前~。

さっそくYoutubeを検索したら、そのときは本人動画は見つからず、彼の作曲したものを他の人が演奏している動画をいくつか発見。全体的に現代曲的なアプローチで、テーマが反戦的だったり文明批判だったりとあまり新しくない感じがしたので、(曲想は別として、1983年の映画「Koyaanisqatsi」みたいな印象。)、てっきりかなり年配の作曲家だと思い、「白髪で蓬髪で痩せてて目がギョロっとして、骨ばった気難しそうな感じの、フィリップグラスアンディウォーホルを足したような老人」というのを勝手にイメージしていたのであった。

 

ところが!

先日、ひまつぶしにDeschamps CHANNELを見ていたら、まさかの「Gorka Hermosaインタビュー動画」があったので見てみたら、全然違った。

予想外に若くて、優しい笑顔の好青年であったのだ!ピアスや帽子など、なかなかオシャレさんだ。で、1976年生まれだそうでして・・・まあ、そんなにすごく若いっていうほどじゃないし、おでこもかなり広くなっちゃってるけどさ・・・最初にかなりの老人をイメージしていた私にとっては衝撃的に若かったの。

 

あらためて動画検索したら、私が彼を「老人」であろうと思い込んだ曲のひとつである「Gernika, 26/4/1937」の本人演奏映像が見つかった。有名なピカソの絵でも描かれた1937年のゲルニカ爆撃をテーマにした曲である。

ゴルカはスペインのバスク地方の生まれだそうなのでゆかりはあるのだが、よもや70年代生まれの人間がそんな曲を作るとは思いもしませんで。

例えば1976年東京生まれの音楽家がいたとして(今38歳くらいね。)東京大空襲を作曲テーマにするなんてこと、想像できない。

追い立てられ逃げ惑うような切迫感といい、ぜったいこの曲の主人公死んでるよね?っていうバッドエンディングといい、他の曲もそうなのだが「なにをそんなに怒っているの???」と聞きたくなるような作風が一貫している。

でもこうやって、音楽家が「音楽を使って怒る」って、正しいなあーと思う。

彼の曲や演奏からは怒りだけではなく、憂いや嘆きや絶望など、いろいろな思いがドラマティックに迫ってくるが、それ以外はニコニコ優しい好青年。それでいいのじゃないか。

 

さて、怒れる好青年、ゴルカの曲は一曲通してベローシェイクだったりトレモロだったりと、アコーディオンの技術的にも難しいので、コンクールガラコンサート等でワザ見せ曲的に演かれているようで、Youtubeでもいろいろな人の演奏映像が発見できる。なかでも多かったのが、「fragilissimo」、スペイン語で「壊れやすい」という意味だそうだ。

イントロの「きいぃーん・・・」というサイン派なみの金属音の部分と、最後のセリフが特徴。(ゴルカの曲はポエトリーリーディングみたいなセリフが入るものも多い。)

下に貼った動画は本人演奏のものです。

他の演奏動画には、こんなのとかこんなのとかこんなのとかある。

同じ曲でも人によって解釈がちがうので面白い。

私はグレイソン・メイスフィールドのこれが好きです。音色に「アコーディオンっぽいコブシ」というかウネッた感じをあまり出さず、徹底的に音の丸みを排除してドライなのもいいし、「ガバッ」「グワッ」「ドドドドド」ってなマンガの描き文字が似合いそうな大胆かつパワフルで直線的な蛇腹遣い。粗暴に見えてしまうぎりぎり紙一重のパワーコントロールにスリルがあって、目が離せない。最後のセリフもヘンに歌い上げるような演劇っぽさがなくて、他の人たちに比べると「地の喋り」に近い感じで、良い。

ま、これは好みによると思いますが。(私はこの人の演奏、基本的に好きなので。)

 

入手可能な音源について。

ゴルカのアルバムは、iTunesでダウンロードできるものでは3枚ある。でも意外とアコーディオンソロのものは無くて、アンサンブル主体。ここに紹介した曲に比べると、聴きやすいし「使い勝手の良いアコーディオン音楽」も含まれている。

Heterodoxia」には「Gernika, 26/4/1937」も収録されているけど、これもアンサンブル。

個人的にはやっぱアコーディオン一本の方が緊迫感あって好きだな。

 

しかし太っ腹なゴルカ君、公式サイトでmp3音源をフリーで公開してます。

楽譜もPDFでフリーダウンロード可。

でも入手したところで、こんな曲弾ける人そんなにいないと思う・・・。

http://www.gorkahermosa.com/web/